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『逮捕されるまで(空白の2年7ヵ月の記録)』(市橋達也) [本・雑誌]

私の周りでも「絶対に読まない」と決めている人もいるくらい、出版について賛否両論のある
『逮捕されるまで(空白の2年7ヵ月の記録)』(市橋達也)を、野次馬根性で読んでみました。

私は著者の文章も挿絵も嫌いではなくて、読み物としては面白かったです。
主に2年7ヵ月に及ぶ逃亡生活について綴られているわけですが、著者の記憶力の良さに
驚き、とても頭のいい人だとも思いました。
ただ、所詮本ですし、出版の時期が時期なだけに事件の真相について書かれているはずも
なく、私は、手記というよりも、著者自身の経験を基に書かれた小説として読みました。

被害者の台詞"My life is for me."(「私の人生は私のもの」)は、著者自身の言葉のように
も聞こえます。小説の中の著者は、逮捕の恐怖に怯えながらも、生き生きとしていて生命力
もあり、生まれて初めて自分の人生を生きているかのような印象を受けます。
著者は"My life is for me."の意味が分からなかったと言っていますが、事件以前の著者の
人生で"My life is for me."を実感することがなかったようにも思われ、そのことがとても気に
なりました。

事件そのものの核心には触れていませんが、被害者との関係がどのようなものであったか
を連想させる記述は所々に見られます。私には、被害者が決して踏んではならない地雷を
踏んでしまったようにも感じられました。(報道でストーカーという言葉を見聞きしたこともあり
ますが、私は、二人はそこそこ親しかったのではないかと思います。また、被害者が著者に
対して言ったという言葉の中にも、妙に引っ掛かるものがありました。)

著者がどこまで真実を話すのか分かりませんし、おそらくすべてが明らかになることはないと
思いますが、この本を読み終えて、著者の成育環境にも一段と強い関心が生まれました。

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『Touching from a Distance(タッチング・フロム・ア・ディスタンス)』(4) [本・雑誌]

本書は、イアン・カーティスの未亡人であるデボラ・カーティスによる、イアンの伝記です。
そして、著者はイアンとの間に離婚問題を抱えていた当事者でもあります。よって、書かれて
いることが全て真実だとは思えないですし、特に離婚問題、愛人問題についての記述に関し
ては、実際に矛盾も多々感じます。でも、当時イアンの置かれていた状況を探る手がかりとし
ては、とても興味深い本だと思います。

本書を読む限りでは、著者は、亡くなったイアンよりも自分のことを最大の被害者だと思って
いるように感じられます。他者の言葉を借りているとはいえ、イアンの死について、「癲癇の
薬の副作用が原因」(じゃあ、薬以外でどうやって癲癇の発作を抑えればよかったの?)とか
「イアン本人が周りに助けを求めてさえいれば…」(本人のSOSに周りが気づかなかっただ
けじゃないの?)とか「もともと本人が死に魅せらていた」(それって希死念慮じゃないの?)
など、数々の突っ込みを入れたくなるような趣旨の文言には驚かされます。

イアンがフルタイムの仕事を辞めた後、カーティス家の経済状態はかなり悪化したようです。
著者は亡きイアンの金銭感覚を批判していますが、著者自身も、イアンが癲癇の発作を抱え
ながらもステージに立ち続けている状況の中で一戸建てに住み続けることを望んだり、十分
に独特な価値観の持ち主だと感じました。
本書を読み終えて、私は、著者の結婚生活が破綻したことに何ら疑問を感じませんでした。
イアンの愛人問題以前に、すでに二人の関係はギクシャクしていたように見受けられます。

さらに、著者は、イアンの愛人アニックに対して、事実無根の辛辣な批判までしています。
気持ちは分からないでもないですが、著者が当時のことをどのように表現しようと、アニックの
存在が、癲癇の症状が悪化し身体的にも精神的にも困難な状況にあったイアンを支えていた
ことは間違いないと思います。

本書によると、著者は怒りを抑えきれず、アニックの職場にまで電話したこともあるそうです。
(著者とイアンの夫婦関係が実質上終わったことを著者が認めていないことを悟ったアニック
のとまどいは、とても大きかったようです。そして、このことがイアンをさらに追い詰め、著者と
イアンとの関係をいっそう悪化させることになったようです。)

それにしても、当時イアンが唯一信頼し、最も必要としていたと思われる存在が、(愛人という)
最も弱い立場にあるアニックだったとは……何という運命の皮肉なのでしょう。

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『Touching from a Distance(タッチング・フロム・ア・ディスタンス)』(3) [本・雑誌]

この本を読むと、持病の癲癇の悪化、愛人問題、離婚問題、経済的な困窮、バンド活動に
伴う重責など、当時のイアンの置かれた状況はかなり複雑だったと想像出来ます。
また、本書でも触れていますが、イアンは癲癇だけでなく、うつ病も患っていたようです。
そして、うつ病の最も深刻な症状は自殺企図で、うつ症状が最も酷い極期よりも、比較的
症状が軽く見える病初期や回復期のほうが自殺の可能性は高いと言われているようです。

まず、当時のイアンの状態を近くで見ていながら、周りにいた人々が呑気だったことに驚き
ます。イアンの身体的、精神的疲労に気づかなかったのでしょうか。もし分かっていながら、
自己の利益を優先したのであれば、とんでもないことだと思います。
また、生身の人間がステージの上で起こす発作がまるでショー(見世物)のようになってい
た状況は、私の感覚だと、人権問題ではないかと思ってしまいます。自殺未遂を起こした
イアンをアメリカ公演に連れて行こうとしていたことも、とても正気の沙汰とは思えません。

本書によると、イアンの未亡人である著者は、実に見事に癲癇発作の介助をしています。
しかし、著者は、イアンがハードスケジュールに追われながら、度々発作を起こすことに慣れ
てしまったのでしょうか。同じように夫を持つ身として、長い間そのような悲惨な状況を観察
(あるいは傍観)し続けることが出来たことに驚かされます。
本来ならば、発作を起こさぬよう配慮しなければならなかったはずですが、昼間のフルタイム
の仕事の上に夜のギグでは、いくら何でも、癲癇の発作を抱えている人を働かせ過ぎです。

私の学生時代の友人が癲癇の持病を持っていて、発作を抑える薬を飲んでいました。
医者の指示通り、20歳前後の若者としては節度のある生活を送っていたので、症状は安定
していましたが、それでも本人の中で発作の恐怖が消えることはなかったようです。
また、うつ病を持っている友人もいて、大学の授業を欠席することも多かったのですが、周り
から怠けていると思われるのではないかと、よく気にしていました。
当然のことながら、二人とも焦燥感が強く、自分の人生に悲観的になることもありました。
「人に迷惑ばかりかけ、役に立たない」と自分を責める一方で、自分の辛さを周りに理解して
もらえないことで孤独感に苛まれ、人間不信のような状態に陥ることもあるようでした。

イアンは、その早過ぎる晩年に、バンドを辞めたいと周りに漏らすこともあったようです。
当時イアンと関わった当事者の多くが、「ことの深刻さに気づかなかった」という立場を取ると
しても、それはそれで真実なのかもしれません。
ただ、残念なことに、この世の中には、自分に都合の悪いことについては気がつかない振り
をするのが上手な人達が存在するのも事実だと思います。

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『Touching from a Distance(タッチング・フロム・ア・ディスタンス)』(2) [本・雑誌]

先日、何気にAmazonを覘いていたら、『Touching from a Distance(タッチング・フロム・
ア・ディスタンス)』(デボラ・カーティス著)の英語版の別ヴァージョンを見つけました。
表紙が、私の一番好きなイアンの写真だったので、思わず、カートに入れてしまいました。
「The inspiration for the film Control」と印刷されているので、おそらく、映画「Control
(コントロール)」の製作・公開に合わせて、増刷されたのだろうと思います。

この本を読んで、「癲癇の発作、(薬の副作用による)鬱症、フルタイムの仕事、妻と幼い
娘のいる家庭、バンドのフロント・マンとしての責務、熱狂的なファン等、イアン・カーティス
は何と背負うものの多い人だったのだろう」、そして「イアンと同じような状況で、呑気に、
陽気に暮らせる人がいたら、その人のほうが希少だろう」というのが私の正直な感想です。

癲癇の発作を抑えるためには十分な休養と規則正しい生活が好ましいそうですが、当時
のイアンの生活は全く逆だったようです。
癲癇の発作が始まった後も、しばらくの間、バンド活動と平行して、イアンはフルタイムの
仕事も続けていました。そして、バンドの人気が上がるにつれ、ギグの回数も増えていき
ます。忙しい生活の中で、イアンの癲癇の症状は悪化していき、最期の頃は、観客が観て
いるステージの上で発作を起こすこともあったそうです。また、亡くなる一ヶ月ほど前には
自殺未遂まで起こしていますが、その時すでにアメリカ公演が予定されていました。
そして、1980年5月18日、イアンは、アメリカに出発する前に自ら命を絶ちます。

1980年3月には、ジョイ・ディヴィジョンのセカンド・アルバム「Closer(クローサー)」のレコ
ーディングが行われています。そのレコーディングにイアンの愛人アニックが同伴したそう
ですが、その頃、イアンの異変に気づいていたのは彼女だけだったようです。
おそらく、ある時期からは、アニックがイアンの精神的な支えだったのだろうと思います。
(本書には出てきませんが、イアンは、アニックに宛てた手紙の中で、癲癇の発作に対する
恐怖と将来に対する不安について触れています。興味深いことに、イアンとアニックの関係
はプラトニックだったようです。)

本書で、著者(イアンの未亡人デボラ)は、アニックを一方的に批判して、家庭崩壊の原因
もイアンとアニックに求めているように感じます。
その気持ちは理解出来ますが、「死人に口無し」とも言いますし、デボラ、イアン、アニック、
立場の違う三者に、きっと、それぞれ違うストーリーがあるのだろうと思います。

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『Touching from a Distance(タッチング・フロム・ア・ディスタンス)』(1) [本・雑誌]

『Touching from a Distance(タッチング・フロム・ア・ディスタンス)』は、イギリスのバンド、
Joy Division(ジョイ・ディヴィジョン)のボーカリストだったIan Curtis(イアン・カーティス)の
未亡人、Deborah(デボラ)・カーティスによる彼の伝記です。
映画『CONTROL(コントロール)』は、この本が原作になっているそうです。
イアンは、持病の癲癇の悪化や愛人問題で悩んでいたと言われており、バンドのアメリカ
公演の直前に、23歳の若さで亡くなりました。死因は、自殺だったようです。

愛人問題に関しては、著者の立場上、多少個人的な感情が入っているように感じるところ
もありますが、ジョイ・ディヴィジョンの音楽活動のみならず、最も身近にいた人物から見た
イアンのキャラクターや日常生活を垣間見ることができて、とても興味深い本だと思います。
かなりのスペースを、イアンの書きためた詩に割いてあります。
また、巻末にはジョイ・ディヴィジョンのギグのリストが載っており、それを見ると、癲癇の発
作と闘いながら、イアンがどれ程ハードなスケジュールをこなしていたか驚かされます。

私は英語版と日本語版の両方を持っていますが、私の持っている日本語版のほうは、丸々
数ページ分、オリジナルから抜け落ちています。製本ミスやプリントミスではなくて、原稿の
段階で抜けしまったようです。増刷されていれば、出版社のほうで対処しているとは思うの
ですが、今どうなっているのか興味あるところです。

左が英語版で、右が日本語版です。
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