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『Touching from a Distance(タッチング・フロム・ア・ディスタンス)』(3) [本・雑誌]

この本を読むと、持病の癲癇の悪化、愛人問題、離婚問題、経済的な困窮、バンド活動に
伴う重責など、当時のイアンの置かれた状況はかなり複雑だったと想像出来ます。
また、本書でも触れていますが、イアンは癲癇だけでなく、うつ病も患っていたようです。
そして、うつ病の最も深刻な症状は自殺企図で、うつ症状が最も酷い極期よりも、比較的
症状が軽く見える病初期や回復期のほうが自殺の可能性は高いと言われているようです。

まず、当時のイアンの状態を近くで見ていながら、周りにいた人々が呑気だったことに驚き
ます。イアンの身体的、精神的疲労に気づかなかったのでしょうか。もし分かっていながら、
自己の利益を優先したのであれば、とんでもないことだと思います。
また、生身の人間がステージの上で起こす発作がまるでショー(見世物)のようになってい
た状況は、私の感覚だと、人権問題ではないかと思ってしまいます。自殺未遂を起こした
イアンをアメリカ公演に連れて行こうとしていたことも、とても正気の沙汰とは思えません。

本書によると、イアンの未亡人である著者は、実に見事に癲癇発作の介助をしています。
しかし、著者は、イアンがハードスケジュールに追われながら、度々発作を起こすことに慣れ
てしまったのでしょうか。同じように夫を持つ身として、長い間そのような悲惨な状況を観察
(あるいは傍観)し続けることが出来たことに驚かされます。
本来ならば、発作を起こさぬよう配慮しなければならなかったはずですが、昼間のフルタイム
の仕事の上に夜のギグでは、いくら何でも、癲癇の発作を抱えている人を働かせ過ぎです。

私の学生時代の友人が癲癇の持病を持っていて、発作を抑える薬を飲んでいました。
医者の指示通り、20歳前後の若者としては節度のある生活を送っていたので、症状は安定
していましたが、それでも本人の中で発作の恐怖が消えることはなかったようです。
また、うつ病を持っている友人もいて、大学の授業を欠席することも多かったのですが、周り
から怠けていると思われるのではないかと、よく気にしていました。
当然のことながら、二人とも焦燥感が強く、自分の人生に悲観的になることもありました。
「人に迷惑ばかりかけ、役に立たない」と自分を責める一方で、自分の辛さを周りに理解して
もらえないことで孤独感に苛まれ、人間不信のような状態に陥ることもあるようでした。

イアンは、その早過ぎる晩年に、バンドを辞めたいと周りに漏らすこともあったようです。
当時イアンと関わった当事者の多くが、「ことの深刻さに気づかなかった」という立場を取ると
しても、それはそれで真実なのかもしれません。
ただ、残念なことに、この世の中には、自分に都合の悪いことについては気がつかない振り
をするのが上手な人達が存在するのも事実だと思います。

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